はじめに現代のビジネスにおいて、顧客満足度は成功の鍵を握ります。しかし、「24時間365日対応したいが人手が足りない」「問い合わせが集中して対応が追いつかない」といった課題は、多くの企業にとって深刻な悩みです。この課題を解決する切り札として、AIチャットボットが注目されていますが、「開発には専門知識が必要」「高額なコストがかかる」といったイメージから、導入をためらうケースも少なくありません。しかし、AI開発の常識は変わりつつあります。本記事でご紹介する「Dify」のようなノーコード/ローコードプラットフォームの登場により、プログラミングの専門知識がない担当者でも、驚くほど高機能なAIアプリケーションを構築できるようになりました。この記事では、生成AIのエキスパートである弊社の代表・岡田とエンジニア・秋月の対談形式で、Difyを使って実践的なカスタマーサポートBotを構築する具体的な手順を、初心者にも分かりやすく完全解説します。単なる問い合わせ応答に留まらない、ユーザーの意図を汲み取り、複数の質問にも対応できる高度なBotの作り方を学び、自社の業務効率化と顧客体験向上の第一歩を踏み出しましょう。Difyとは? なぜ今カスタマーサポートに最適なのか従来のチャットボットとの決定的な違い岡田:最近、クライアントからAIチャットボットに関する相談を受けることが増えました。特に多いのが、「シナリオベースのチャットボットを導入したけれど、決まった質問にしか答えられず、結局有人対応になってしまう」という悩みです。秋月:よく聞く話ですね。従来のチャットボットは、事前に設定されたルールやキーワードに基づいて応答するものが主流でした。そのため、少しでも想定外の質問が来ると「分かりません」と返してしまうことが多かったんです。岡田:その通りです。しかし、DifyのようなLLM(大規模言語モデル)を活用したプラットフォームを使えば、その問題点を克服できます。Difyの強みは、単なる一問一答ではなく、文脈を理解し、人間のように柔軟な対話が可能なAIを、まるでフローチャートを組むような直感的な操作で開発できる点にあります。ノーコードで実現する高度なワークフロー秋月:Difyは、AIへの指示(プロンプト)やデータの流れを「ノード」というブロックを繋ぎ合わせて構築(オーケストレーション)していきます。これにより、非エンジニアでも複雑なロジックを組むことが可能です。岡田:ええ。例えば、ユーザーからの問い合わせを内容に応じて分類し、それぞれに適したナレッジ(知識ベース)を参照させて回答を生成する、といった一連の流れを自動化できます。これが、本記事のテーマである高機能なカスタマーサポートBotの根幹となる部分です。【実践】DifyでカスタマーサポートBotを構築する岡田:では、実際にDifyを使って、複数の質問に対応でき、かつ不適切な質問はフィルタリングできる、実践的なカスタマーサポートBotの作り方を解説していきましょう。今回は、弊社のサービスに関する問い合わせを想定したBotを例にします。Step 1: 全体像の設計 〜ユーザーの質問をどう処理するか〜岡田:まず、Botの全体的な処理の流れを設計します。今回は以下のような流れを想定します。開始: ユーザーからのチャット入力を受け取る。質問分類: 入力された内容が「挨拶」「料金に関する質問」「不適切な質問」など、どのカテゴリに属するかを分類する。内容抽出: 分類された質問から、具体的な質問項目を抜き出す。(例:「料金プランと導入事例について教えて」→「料金プラン」「導入事例」の2項目を抽出)反復処理: 抽出された複数の質問項目を、1つずつ処理するループを作る。知識参照: 各質問項目に関連する社内ドキュメント(知識ベース)を検索する。回答生成: 検索した情報を基に、LLMが最終的な回答を作成する。終了: 生成された回答をユーザーに提示する。秋月:なるほど。ただ質問に答えるだけでなく、最初にユーザーの意図を正確に把握し、それに合わせて処理を分岐させていくのがポイントですね。特に、悪意のある質問やサービスに関係ない質問を最初に弾く「質問分類器」は、公開するBotには必須の機能と言えそうです。Step 2: ワークフローの構築①(開始〜質問分類)岡田:それでは、Difyのワークフロー画面で構築していきます。まず、ワークフローの起点となる「開始」ノードがあります。ユーザーからのチャット入力は、すべてこのノードに入ってきます。秋月:sys_queryという変数に、ユーザーの入力が格納されるんですよね。岡田:その通りです。次に、このsys_queryを「質問分類器」ノードに繋ぎます。このノードでは、ユーザーの質問がどのような種類のものかをAIに判断させます。岡田:例えば、以下のようにクラス(分類先)を設定します。class_1(挨拶): こんにちは、ありがとう、などの単純な挨拶。class_2(質問): サービス内容、料金、機能などに関する具体的な質問。class_3(不適切・無関係な質問): プロンプトインジェクションの試みや、サービスとは無関係な雑談。秋月:ここで不適切な質問(class_3)と判断された場合、あらかじめ用意しておいた定型文(「申し訳ありませんが、その質問にはお答えできません」など)を返して処理を終了させる、といった分岐も作れますね。岡田:まさにその通りです。この最初のフィルタリングが、Botの安定性と安全性を保つ上で非常に重要になります。Step 3: ワークフローの構築②(内容抽出と構造化)岡田:次に、class_2(質問)と分類された入力に対して、具体的な質問内容を抽出します。ここでは「LLM」ノードを使い、AIに「入力された文章から、質問の要点をJSON形式で抜き出してください」といった指示(プロンプト)を与えます。秋月:昔はLLMが出力したJSON文字列を、さらに別の「JSONに変換」ノードで整形する必要がありましたが、今のDifyなら「構造化出力(Structured Output)」機能を使えば、もっと簡単に、かつ確実にJSON形式でデータを取り出せますね。岡田:良い補足です。技術は日々進化していますね。この構造化出力を使うことで、例えば「SAKUBUNの料金について知りたい。あとAI導入支援の実績も教えて。」という入力から、以下のようなデータを取り出すことができます。JSON{ "items": [ "SAKUBUNの料金", "AI導入支援の実績" ]}このステップで、非構造的な文章を、後続の処理で扱いやすい構造化データに変換することが、自動化の鍵となります。Step 4: ワークフローの構築③(イテレーションと知識ベース連携)岡田:先ほど抽出したitemsには、複数の質問項目が入っている可能性があります。これらを一つずつ処理するために、「イテレーション」ノードを使います。このノードは、配列(リスト)の中の要素を一つずつ取り出して、後続の処理を繰り返してくれる便利な機能です。秋月:プログラミングで言うところのforループ(繰り返し処理)ですね。これを使えば、ユーザーが一度にいくつ質問してきても、漏れなく対応できるわけですね。岡田:その通り。そしてイテレーションの中で、取り出した各質問項目(「SAKUBUNの料金」「AI導入支援の実績」など)に応じて、参照させる「知識ベース」を切り替えます。例えば、「料金」というキーワードが含まれていれば「料金プラン一覧.pdf」を、「実績」なら「導入事例集.docx」をAIに読み込ませる、といった具合です。岡田:最後に、もう一度「LLM」ノードを設置します。このノードには、入力として「イテレーションで取り出した質問項目」と「参照させた知識ベースの情報」の2つを与えます。そして、「これらの情報を基に、丁寧な日本語で回答を生成してください」と指示します。秋月:なるほど。質問ごとに関連性の高い情報だけをAIに与えることで、より精度の高い、的を射た回答が生成できるわけですね。岡田:ええ。この「質問の意図を理解し、関連情報だけをピンポイントで参照して回答を生成する」仕組み(RAG: Retrieval-Augmented Generation)こそが、Difyで高機能なBotを作る上での核心です。こうして生成された回答は、最終的に「終了」ノードに渡され、ユーザーのチャット画面に表示されます。まとめ:Difyで始める、次世代の顧客体験岡田:いかがでしたでしょうか。今回はDifyを使って、ユーザーの複雑な意図を汲み取り、複数の質問にも的確に答えられるカスタマーサポートBotの構築方法を解説しました。秋月:ポイントをまとめると、以下のようになりますね。ステップノード目的分類質問分類器ユーザーの意図を把握し、不適切な入力を弾く抽出LLM(構造化出力)自然文から処理しやすいデータ(JSON)を抜き出す反復イテレーション複数の質問に漏れなく対応する回答知識ベース + LLM関連情報のみを参照し、高精度な回答を生成する(RAG)岡田:ありがとうございます。このように、Difyのようなプラットフォームを活用すれば、従来は専門のエンジニアチームが時間をかけて開発していたような高度なAIシステムを、驚くほど迅速かつ低コストで実現できます。これは、単なる業務効率化に留まりません。24時間365日、顧客一人ひとりの疑問に寄り添う質の高いサポートを提供することは、顧客満足度を飛躍的に向上させ、結果として企業の競争力を高めることに繋がります。本記事が、皆様の会社でAI活用の可能性を広げる一助となれば幸いです。その業務課題、AIで解決できるかもしれません「AIエージェントで定型業務を効率化したい」「社内に眠る膨大なデータをビジネスに活かしたい」このような課題をお持ちではありませんか?私たちは、お客様一人ひとりの状況を丁寧にヒアリングし、本記事でご紹介したような最新のAI技術を活用して、ビジネスを加速させるための最適なご提案をいたします。AI戦略の策定から、具体的なシステム開発・導入、運用サポートまで、一気通貫でお任せください。「何から始めれば良いかわからない」という段階でも全く問題ありません。 まずは貴社の状況を、お気軽にお聞かせください。>> AI開発・コンサルティングの無料相談はこちらFAQQ1. Difyを使うのにプログラミング知識は必要ですか?A1. 基本的な操作にプログラミング知識は必須ではありません。本記事で紹介したようなノードを繋ぎ合わせる直感的な操作で、多くの機能を実装できます。ただし、Pythonコードを直接記述できるノードもあり、プログラミング知識があれば、より複雑でカスタマイズ性の高いワークフローを構築することも可能です。Q2. どのような知識ベース(データ)を読み込ませることができますか?A2. Difyは、PDF、Word、Excel、CSV、Textファイルなど、様々な形式のドキュメントを知識ベースとして直接アップロードできます。また、NotionやWebサイトのコンテンツを同期して、最新の情報を自動で知識ベースに反映させることも可能です。Q3. Difyの料金体系はどのようになっていますか?A3. Difyには、クラウド版とセルフホスト版があります。クラウド版には無料プランも用意されており、一定の制限内で機能を試すことができます。より多くの機能や大規模な運用が必要な場合は、有料のビジネスプランやエンタープライズプランが提供されています。料金の詳細は公式サイトをご確認ください。https://dify.ai/jp/pricing注釈Dify: 直感的なインターフェースでAIアプリケーションを構築・運用できるオープンソースのLLMOpsプラットフォーム。ワークフローのオーケストレーション、プロンプトエンジニアリング、知識ベース管理などの機能を統合的に提供する。プロンプトインジェクション: AIチャットボットに対し、開発者が意図しない不正な指示(プロンプト)を入力することで、機密情報を漏洩させたり、不適切な発言をさせたりするサイバー攻撃の一種。JSON: テキストベースのデータ交換フォーマット。"キー": "値" の形式でデータを記述するため、人間にも機械にも読みやすい特長がある。