LLM(大規模言語モデル)を活用したAIアプリケーション開発は、ビジネスの自動化と効率化を加速させる強力な手段です。しかし、その裏側では多くの開発者が共通の課題に直面しています。それは、LLMの出力の不安定さや、予期せぬAPIエラーです。これらの問題は、アプリケーションの信頼性を著しく低下させ、最悪の場合、業務を停止させてしまう可能性すらあります。この課題を解決する鍵となるのが「エラーハンドリング」です。エラーを未然に防ぎ、発生したとしても適切に対処する仕組みは、AIアプリケーションを実運用に乗せる上で不可欠と言えるでしょう。本記事では、ノーコード/ローコードでAIアプリを構築できるプラットフォーム「Dify」に焦点を当て、その強力なエラーハンドリング機能について、弊社の代表・岡田とエンジニア・秋月の対談形式で徹底解説します。Difyで「エラーが起きたら処理が止まってしまい、泣き寝入りするしかない」と感じていた方こそ、必見の内容です。この記事を読めば、Difyのエラー処理機能を完全にマスターし、堅牢で安定したAIアプリケーションを構築するための具体的なノウハウを掴むことができます。Difyにおけるエラーハンドリングの重要性AIアプリケーション、特にLLMを組み込んだシステムは、その性質上、予測不可能な挙動を示すことがあります。まずは、なぜエラーハンドリングがこれほどまでに重要なのか、その背景から見ていきましょう。LLMの挙動と潜在的なリスク岡田:秋月さん、最近Difyにエラーハンドリングの機能が追加されたと聞きました。これまでLLMを使った開発で苦戦してきた部分だと思うので、ぜひ詳しく解説をお願いします。秋月:はい、もちろんです。例えば、ワークフローを実行する際に、LLMの出力がおかしかったり、APIサーバーが落ちていたりして、処理を再実行したいケースは頻繁にあります。岡田:今まではどうしていたんですか? まさか、泣き寝入り…?秋月:泣き寝入りというか、手動でもう一度実行するしかありませんでした。しかし、Difyにエラー処理機能が実装されたことで、エラー発生時の具体的なアクションをあらかじめ設定できるようになったのです。LLMは非常に強力ですが、その出力は常に100%正確とは限りません。指示したフォーマット(例えばJSON)を無視することもあれば、APIが一時的に高負荷で応答しないこともあります。こうした事象は、ビジネスロジックの破綻やデータ不整合に直結するため、見て見ぬふりはできません。安定稼働こそがビジネス価値を高めるユーザーに快適な体験を提供し、業務プロセスを確実に遂行するためには、アプリケーションの「安定稼働」が絶対条件です。エラーが発生するたびにシステムが停止していては、せっかくのAIも宝の持ち腐れです。Difyのエラーハンドリングは、こうした不安定要素を吸収し、システムの堅牢性を高めるためのセーフティーネットとして機能します。Difyの3つのエラー処理機能を徹底解説秋月:Difyのエラー処理には、大きく分けて3つの方法があります。これらを使い分けることで、様々なエラーシナリオに対応できます。① 失敗時の再実行(リトライ)秋月:まず最もシンプルなのが「失敗時の再実行」です。これを設定すると、例えば「最大3回、1000ミリ秒ごと」のように、エラー発生時に処理を自動でリトライさせることができます。岡田:なるほど。一時的なサーバーダウンみたいなケースにはこれで十分対応できそうですね。秋月:その通りです。LLMのAPIが一時的に不安定な場合や、ネットワークの一瞬の切断など、時間をおけば回復する可能性が高いエラーに対して非常に有効です。② デフォルト値秋月:次に「デフォルト値」です。これを選択すると、ノードの処理が失敗した際に、後続のノードに渡す値をあらかじめ決めておくことができます。例えば、「ここで失敗した場合には『失敗』という文字列を次のノードに渡す」といった設定が可能です。これにより、エラーが発生してもワークフロー全体を停止させることなく、「エラーが発生した」という情報を持たせたまま処理を継続させることができます。特定の条件下で、処理の失敗を許容しつつもフローを完結させたい場合に役立ちます。③ エラーブランチ秋月:そして、最も柔軟性が高いのが「エラーブランチ」です。これを指定すると、エラーが発生した場合に通常ルートとは別の処理フロー(ブランチ)に処理を分岐させることができます。岡田:おお、つまりエラー専用の処理ルートを作れるんですね。秋月:はい。例えば、エラーブランチの先で「エラー内容をログとして記録する」「Slackに通知を送る」「ユーザーにエラーメッセージを表示する」といった、より積極的なエラー対応が可能になります。具体的には、エラーブランチの先のノードで、エラーメッセージやエラータイプといった変数を利用できるので、「どのようなエラーが起きたか」を正確に把握し、対応策を自動化できるのが強みです。3つのエラー処理方法の使い分けこれらの機能を理解し、適切に使い分けることが安定したAIアプリケーション構築の鍵となります。機能名主な用途具体的なユースケース失敗時の再実行一時的・偶発的なエラーからの自動回復・LLMのAPIサーバーの一時的な不調・ネットワークの瞬断デフォルト値処理の失敗を許容し、フローを継続させたい場合・情報が取得できなくても問題ないオプション項目・後続処理でエラーの有無を判定したい場合エラーブランチエラー内容に応じた能動的な処理を行いたい場合・エラー内容をデータベースやスプレッドシートに記録・開発者へSlackやメールでアラート通知・代替手段で処理を再試行(例: 別のLLMモデルを使う)実践!エラーハンドリングの置き方のコツ岡田:機能についてはよく分かりました。では、実際にワークフローを組む上で、どういう場所にどういったエラー処理を置くべきか、何かコツはありますか?秋月:良い質問ですね。エラーハンドリングは、「どこで」「どのようなエラーが起こりうるか」を予測して配置することが重要です。特に注意すべきはLLMのノードです。ケース1:LLM自体のエラー(APIダウンなど)秋月:まず、LLMノード自体がエラーを返すパターンです。これは主に、OpenAIやGoogleなどのAPIサーバーがダウンしている、あるいは高負荷状態にあるケースが考えられます。岡田:LLMって、体感的には月一回くらいはまだ落ちますよね。どのモデルが一番安定してるとかありますか?秋月:最近はOpenAIなどはかなり安定してきましたが、それでもゼロではありません。Geminiなども落ちる時はあります。体感では、どのモデルも月一回くらいは不安定になる可能性があると考えた方が良いです。特定のモデルを選べば安定するというよりは、「どのモデルでもエラーは起こり得る」という前提で設計することが大切です。岡田:なるほど。秋月:この種のサーバー起因のエラーに対しては、先ほど説明した「失敗時の再試行(リトライ)」を行えば、大体は解決できます。数秒待って再実行すれば、APIが復旧していることが多いからです。ケース2:LLMの「出力」の品質エラー(最重要)秋月:そして、こちらの方がより頻繁で、かつ注意深く対応すべきなのですが、LLMからの出力が期待した形式になっていないという問題です。岡田:ああ、構造化されたアウトプットが崩れちゃってる、みたいな時ですね。秋月:そうです。例えば、「JSON形式で出力して」と指示したのに、JSONのフォーマットが崩壊していたり、そもそもJSONではなかったり。あるいは、不要な解説文(「はい、こちらがご指定のJSONです」など)が付与されていて、そのままではプログラムで解釈(パース)できないケースです。他にも、指定したキーが存在しない、リスト形式であるべき箇所がそうなっていない、といったパターンも頻繁に起こります。岡田:確かに、LLMはモデルによりますけど、結構出力がバグりますよね。秋月:はい。この場合、処理を次に進めることができないため、明確な「エラー」として扱う必要があります。このようなケースでは「エラーブランチ」が非常に有効です。出力形式を検証するコードノードを挟み、形式が不正だった場合にエラーブランチに流すことで、「もう一度生成をやり直す」「エラーとしてログに残す」といった制御が可能になります。これが最も実践的で使いやすいパターンだと思います。まとめ今回は、Difyにおけるエラーハンドリングの重要性と、その具体的な実装方法について解説しました。LLMを組み込んだAIアプリケーション開発において、エラーは避けて通れない課題です。しかし、Difyに搭載された3つのエラー処理機能(失敗時の再実行、デフォルト値、エラーブランチ)を適切に使い分けることで、システムの信頼性と安定性を飛躍的に高めることができます。特に重要なのは、以下の2つのポイントです。APIサーバーの一時的な不調には「失敗時の再実行」が有効。LLMの出力形式の崩壊など、より深刻な問題には「エラーブランチ」を活用して能動的に対処する。「どのモデルを使ってもエラーは起こり得る」という前提に立ち、堅牢なエラーハンドリングを設計に組み込むこと。それこそが、単なる「動くAI」から「ビジネスで使えるAI」へと進化させるための鍵となるのです。もし、自社でのAI開発において、「エラー処理の実装方法がわからない」「より高度で複雑なワークフローを安定稼働させたい」といった課題をお持ちでしたら、ぜひ一度私たちにご相談ください。その業務課題、AIで解決できるかもしれません「AIエージェントで定型業務を効率化したい」 「社内に眠る膨大なデータをビジネスに活かしたい」このような課題をお持ちではありませんか?私たちは、お客様一人ひとりの状況を丁寧にヒアリングし、本記事でご紹介したような最新のAI技術を活用して、ビジネスを加速させるための最適なご提案をいたします。AI戦略の策定から、具体的なシステム開発・導入、運用サポートまで、一気通貫でお任せください。「何から始めれば良いかわからない」という段階でも全く問題ありません。 まずは貴社の状況を、お気軽にお聞かせください。>> AI開発・コンサルティングの無料相談はこちらFAQQ1: Difyのエラーハンドリングで最もよく使う機能はどれですか?A1: 用途によりますが、実運用で最も重要かつ使用頻度が高いのは「エラーブランチ」です。LLMの出力形式チェックなど、単純なリトライでは解決できない問題に柔軟に対応できるためです。APIの一時的なエラー対策としては「失敗時の再実行」も手軽で非常に有効です。Q2: LLMの出力がJSON形式でない場合、どのようにエラーとして検知すれば良いですか?A2: LLMノードの後続に「コード」ノードを配置し、Pythonなどの言語でJSONのパースを試みるのが一般的です。例えば、Pythonのtry-except構文を使い、json.loads()が成功すればそのまま処理を続け、JSONDecodeErrorなどの例外が発生したらエラーとして処理します。Difyでは、コードノード内でエラーを発生させると、後続のエラーハンドリング(エラーブランチなど)を起動させることができます。Q3: エラーハンドリングを設定すると、AIの利用コストは増加しますか?A3: 「失敗時の再実行」やエラーブランチでLLMを再度呼び出す処理を設定した場合、その分のAPI利用料が発生するため、コストは増加する可能性があります。しかし、エラーによってビジネスプロセス全体が停止する損失に比べれば、微々たるものであるケースがほとんどです。リトライ回数を適切に設定するなど、コストと信頼性のバランスを取ることが重要です。注釈Dify: オープンソースのLLMアプリケーション開発プラットフォーム。GUIベースで直感的にAIワークフローを構築・運用できる。LLM (Large Language Model): 大規模言語モデルの略。膨大なテキストデータでトレーニングされた、人間のような自然な文章を生成・理解できるAIモデル。GPTシリーズやGemini、Claudeなどが代表的。JSON: テキストベースのデータ交換フォーマット。構造化されたデータを軽量に表現できるため、APIでのデータ受け渡しなどで広く利用される。API (Application Programming Interface): ソフトウェアやプログラム、ウェブサービス間の機能を連携させるための仕組み。